「写 真」は一期一会の宝もの 23

 昨年夏、野生動物の写真を撮りにケニアへ行ってきました。そして幸運にも、折角行ってもなかなか見られないという、サバンナ最大の神秘、ヌーの大群の川渡りの光景を見ることが出来ました。

 ヌー大移動の舞台、タンザニアのセレンゲティ国立公園とケニアのマサイマラ国立保護区とを合わせると四国の面積より広く、ここだけで野生動物の生態系が保たれています。

 この地をほぼ東西に横切って流れている幅20〜100mのマラ川を境にして毎年雨季と乾季が入れ替わるので、1500万頭ものヌーが年に2回、10・11月頃北のケニアから南のタンザニアへ、7・8月頃にはその逆方向に草を求めてマラ川を渡り、1,500kmもの大移動を行い、地平線までヌーで埋め尽くされるのです。川を渡る際は、川幅の狭い所を見付けて渡ります。 しかし川幅が狭い所は流れが急で両岸が数10mもある高い崖になっているのです。ヌーの大群はいくつかの集団に別れ、川を目指して進むのですが、彼らがいつ川を渡り始めるかは誰にも分かりません。

 ヌーが渡りそうな所から200m位離れたところへサファリカーを止めて、ヌーが渡り始めるのを今か今かとひたすら待ち続けるのです。先頭のヌーは、マラ川には多くのワニが待ちかまえていることを知っているのでなかなか川に入ろうとしません。私達が4時間余りも待った頃、あとからあとから続いてくる無数のヌーに押し出されるような形でついに先頭のヌーが思い切って川に飛び込みました。その瞬間他のヌーたちも堰を切ったように川になだれ込んで来ます。一旦川渡りが始まると、その集団が渡り終えるまで1時間以上も続きます。

 途中、川で溺れ死んだり、崖を飛び降りる際に脚の骨を折ったり、ワニやハゲタカの餌になってしまうものも居ます。漸く対岸にたどり着いてもライオンやヒョウがおなかを空かして待っていることもあるのです。

       
 長時間待ってついに、大地を揺るがす蹄の音と土砂煙り、命がけのジャンプ、水しぶきと咆吼が続く非情とも言える自然界の驚異に触れつつ、美しいサバンナの夕焼けが迫るころ、私は大自然究極のドラマを目の当たりにした感動にしばし浸っていました。                                                             驚 異 の 習 性

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