パソコンプラザ 慢性疾患患者の管理 Medical Way(日本医事新報社1986/Vol.3/No.11)
「実用慢性疾患患者継続管理プログラム」と名づけたPC-9801用オリジナル・プログラムを半年がかりで作成し,今年6月の第9回日本プライマリ・ケア学会で発表させていただいた。
■プログラムの槻要
このプログラムは昭和56年に発表したもの1)が当時のパソコン及びディスクドライブの容量不足のため患者データを長期間,継続的に保存する能力が不十分であった点を改良し,何年間でもデータを累積保存できて,それらのデータの流れを分かり易いカラーグラフで表示させたり,コピーを作って患者に手渡すことができるように工夫したものである。
さらに昭和58年に医用プログラミング解説用に作成した「患者データバンク作成プログラム」2)〜4)のアイデアも加えて病歴,禁忌,アレルギー,治療法などの情報も合わせて入力できるようにし,カルテ内容の管理能力を一層強力なものとした。
これを使用して診療の合間に患者の検査データなどを入力して置くと,慢性疾患患者に多い長期治療中断をパソコシが自動的に発見し,これまでの検査成績と共に慢性疾患では良い生活習慣・定期的な検査・正しい服薬などが重要であることや,種々の疾患に特有の注意事項などを知らせる個々の患者に合った内容のメールを作成してくれる。
このようなメーリングは患者にとっては病状悪化をくいとめ,医療機関にとっては患者増につながり,国家的見地から見れば患者の重症化を防ぎ超高額医療費患者の減少となって健保財源の節約になるという三つのメリットがある。
また,非常に長い治療中断のある患者が来院した場合も,苦労して昔のカルテを探さなくてもデスクサイドのパソコンに患者名やカルテ番号を入力するだけで,その患者についての必須の情報を直ちに知ることができる。
同じディスプレイ上に,それまでの病状経過をグラフ表示させ,これを患者と共に見ながら病状などを説明することにより説得力が増す。
■実用プログラムとは
真に実用に耐え得るプログラムであるための条件とはどんなものであろうか。
第一に病気を減らし健康を増進させることにプラス効果を持つものでなければならない。このプログラムを使用することにより,治療中断患者に過去の検査データの流れを示し,治療継続をうながして病状悪化をくいとめることが可能である。
第二に使い易いプログラムでなければならない。データベースを作成し,そのデータを利用して種々の仕事をさせるこの種のプログラムでは,特にデータ入力が容易であることが肝要である。本プログラムを使用し,患者データ入力に要する時間は通常30秒以内,新患で1分以内であり,診察中の医師が患者と対話しながらでも容易に入力可能である。
第三に医療環境の厳しい折から,そのプログラムを使用することが医院経営を圧迫するものとならず,逆に医院経営を助けるものであることが望ましい。コンピュータ使用のためのオペレーターを別に雇うなどということは許されない。 本プログラムはこれら三つの条件を満たすべく開発した。
■慢性疾患における検査データ管理プログラムの重要性
多くの身体異常は種々の検査結果の軽度異常値ないし正常と異常の境界領域値の経過を注意深く観察することにより,予見・予防が可能だと思われる。そしてこの軽度異常値ないし正常値の収集・管理こそが我々第一線の一般開業医にできて,大学病院などではできない重要な仕事の一つである。
軽症慢性疾患患者の検査データはそのような患者があまり訪れない大学病院などでは得にくいから,それらを管理するためのプログラムは不要であるので,大学などでは開発されない。このようなデータを収集できる立場にある開業医こそが率先して創らねばならないプログラムの一つである。
かぜひき・はらいたの際にでも得ることのできるこれらの貴重な身体情報は整理・保存が大変難しく,通常,該当患者が来なくなって1〜2年もすればカルテと共に忘れ去られてしまうのが大病院・小診療所の別なく今日までの傾向であった。
幸いなことに,多くの患者の継続的なケアというような単調で面倒な仕事こそがプログラミング次第ではパソコンに最も適した,最も得意な仕事となり得る。
昨今ではdBASE II,informixといった簡易データベース作成プログラムも種々市販されているが,自作ソフトの良い点はなんと言っても目的に合った,かゆい所へ手の届くようなプログラミングが可能なことや,保守・修正が容易であることなどであろう。
脳細胞の老化予防にはパソコン・プログラミングが,プログラミングでたまったストレスの発散と筋骨の老化予防にはテニスが最適と考え,10年ほど前からこの両者を実行に移し,趣味と実益を楽しんでいるこのごろである。
1)栗原眞純:役に立つ開業医向け実用プログラム,開業医のためのマイコン実例集,P.17〜88,南江堂,1983.
2)栗原眞純:パソコン講座,伏見医報 8,1983〜5,1984.
3)栗原眞純:患者データバンク作成プログラム,メディカル・マイコン・レポート 4(12),1984.
4)栗原眞純:医用プログラミングの初歩,モダンメデイシン 13(9),1984.
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