ドナーとレシピエント  伏見医報 Apr., 1992

 生命保険の審査をしていて思いました。

 脳死ドナーから心臓移植をした場合、ドナーは果たして死亡しているのでしょうか。ドナーの心臓がレシピエントと共に生きていることははっきりしているというのに。

 ドナーの脳がこの世に存在しない以上、やはりドナーは死んでいるのだ。

 それなら将来、首から上全体の移植が可能になった時にはどうなるのか。その場合はどちらがドナーでどちらがレシピエントなのか。

 要するにどちらがどれだけの割合で生きているのかがよく分かりません。生命保険金は誰が何時どのような割合で受け取ることになるのでしょう。

 肝、腎などの移植では元のドナーが生存していることもあります。この場合レシピエントの身体の一部は明らかにドナーのものです。従ってレシピエントの財産の一部もドナーのものになると思うのですが実際にはどうなっているのでしょうか。

 心臓移植を成功させるにはドナー(の心臓)が生きていることが必須です。この場合ドナーの死亡時刻は一体いつになるのでしょうか。脳死と判定された時刻なのでしょうか。

 だとすると死亡日時によって死亡保険金の受取人や遺産相続人が違ってくることはよくあることなので、脳死判定時刻が人為的に操作されるおそれが出てきます。

 だから、脳死時刻などという人為的に操作可能な時刻をその人の死亡時刻とすることは好ましくありません。真の死亡時刻は脳だけでなくその人の身体全体の死をもって決定するのが良さそうです。

 やはりレシピエントが死亡するまでは、ドナー(の一部)も生存しているというしごく当たり前のことになるのでしょうか。

 すると今度は死亡したレシピエントの残した遺産の一部を、ドナー側の相続人が受け収る権利が生じてきそうです。

 臓器移植という現代の医学技術によって、医者だけでなく法律家もまことに厄介な問題をかかえこむことになりそうです。

                      

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