「富 士」 撮 影 行
         伏見医報   Jan., 2005

 50年以上も写真撮影を楽しんで来た小生ですが、富士の写真をゆっくり撮影したことがありませんでした。新幹線や高速道路からとかテニスの試合の際などに少しは撮影したことはありましたが。

 この正月休み、何となく富士山を撮って見たくなりました。専門家に尋ねると素人には風景写真で富士ほど難しい撮影対象はあまり無いよとの忠告を受けました。まず第一の難関はこちらの都合に合わせては姿を見せてくれないというものでした。正月3カ日に晴れるのは何年かに1回の割合だそうです。

 と言う訳で富士山を撮りに行くのに何週間も前から宿泊予約をすることは止めました。与えられた時間は1月1日から3日まで、その間の天候が良くなければ行っても意味が無いからです。

 幸か不幸か子供達は長距離旅行が大嫌いで車で3時間以内で行ける所しか来てくれません。飛行機も新幹線もだめなのです。今回も自分たちは2時間足らずで行ける片山津温泉の温水プール付きホテルで遊んでいるからお父さんは後からおいでということでした。

 ですからホテルを予約する必要もなく、いざとなれば若い頃良くやったように車の中で寝ても良いのです。さて12月31日夕刻になりました。ネットで天気予報を見ると富士方面は1日から3日まで晴れ、降水確率10%以下と出ているではありませんか。

 やはり出来ることなら屋根の下で寝たいので直ちにネットで宿屋探しに入りました。まず富士山撮影ポイントの沢山ある河口湖と山中湖周辺のホテルから民宿まで片端から電話をかけて見ましたが殆どの所で満室と言うことで断られました。

 空いている所もこちらが一人だというと一人では採算が取れないのでお断りという所もたくさん有りました。

 20数軒目かに電話した民宿で初めて優しそうなおかみさんが出て来てOKしてくれたのでほっとしました。それから着替えや防寒具、長靴、撮影機材などを車に放り込んで元旦の朝を待ち、6時半起床7時にみぞれ混じりの天気の中を出発しました。

 カーラジオの交通情報が何と名神高速の栗東から竜王まで凍結により通行止めと言っています。しかし富士は晴れと言う予報を信じて取りあえず琵琶湖東側の湖岸道路を北上し竜王から名神高速に入りました。

 しばらく行くと今度は沼津から先が通行止めとラジオが言っています。沼津まではゆっくり行けばまだ5時間以上かかるのでその内通れるようになるだろうと楽観していました。

 富士山がよく見えるので有名な東名高速の富士川SAで休憩を取りました。富士川SAは良く出来ていて人間は外に自由に出られるのです。すでに天気晴朗、まずここで最初の撮影です。道行く人に尋ねるとやはり旧一号線の由比当たりが良いよということなので高速道路を降りてしばらく一号線からの富士を撮りながら走りました。この時点では東名高速の沼津から先は依然通行止めだったのです。

 由比と富士川の撮影を終わって東名高速に戻った時には沼津から先も通行制限解除になっていました。御殿場で降りて民宿へ着いたのが午後6時でした。

 20数軒目にやっと空いていた民宿なのだからどうせしょうもないところだろうなあ、朝早く起きて適当な撮影場所を探さねば、などと思いながら入ってみると何と山中湖のすぐ傍で眼前の山中湖越しに富士山が全部見えるのです。こんな最高な所とは思っても見ませんでした。

 大晦日から日本テレビのクルーが初日の出の生中継をやりに来ていました。全国の著名な写真家の定宿にもなっているのだそうです。実際何人かのプロ写真家と知り合いになりました。

 宿のおかみさん(写真右)の話ではここらの民宿では一人泊は原則お断りなのだそうです。採算がとれないのと自殺されるのがいやなのだということでした。「それならどうして私をOKしてくれたのですか」と尋ねると「何か気になって断れなかった」のだそうです。ラッキーなことでした。

 夜には丁度来て居られたプロ写真家の中橋富士夫さん達と一緒にお酒とコーヒーをご馳走になり写真四方山話に花を咲かせました。彼らが言うには「お前は何と幸運な男か、こんなに美しい富士が正月三が日に見られるのは希なんだぞ、しかも始めて来たばかりで」なのだそうです。
 そうそうこの民宿は甲斐路荘(写真左、http://www.fujigoko.org/yado/kaiji/ )と言ってBARや立派な浴場もある大きな民宿です。

 富士山を撮りに行く、または見に行くのが目的なら抜群の場所ですので覚えておかれると良いと思います。冬、車で行かれる場合は必ず4駆のスタッドレスタイヤ付きにして下さい。早朝は氷点下10℃以下になります。
 二日と三日の朝は甲斐路荘の庭先の湖岸からの撮影(写真右)、お昼から午後にかけては山中湖と河口湖周辺や「富士は忍野に始まり忍野に終わる」と中橋氏の言われる忍野で撮影しました。デジカメとクラシックカメラの両方で500枚余り撮ったと思います。

 三日の午後は片山津の温水プール付ホテルへ直行です。翌四日、五日と同じホテルでのんびり過ごしインターネットカフェから小生のホームページBBSへ送って下さった写真へのお礼を書いたりメル友にメールを書いたりして過ごし、五日の夜帰って来ました。
 久しぶりに短期間に一人で1530kmも運転しました。運転中に眠気が襲って来る時には山中千尋さんのジャズピアノを大音響で鳴らして眠気を追い払いました。

 余談になりますが山中千尋さんは桐朋学園大学でクラシックピアノを学び、突如ジャズピアノに目覚め単身ボストンの名門バークリー音楽大学へ入学、首席で卒業され、イチローや松井同様、いやそれ以上に世界をまたにかけて活躍されているジャズピアニストです。

 一度だけ京都コンサートホールで演奏されたことがあるのですが、やはり活動の場は殆どがアメリカとヨーロッパなのだそうです。なにしろ日本は遠いのでと言ってられました。たいへん小柄で魅力的な女性(写真左)でどこからあの情熱的で強烈な音が出てくるのか不思議な感じがします。実はツーショットの写真もあるのですが叱られるといけないので公表は控えさせていただきます。
 肝心の富士山の写真はカラーが命ですのでまたいつか表紙写真などを頼まれた時(永遠に頼まれないかも知れませんが)のために残して置きます。でもそれでは余りに味気なく長文を読んで頂いた先生方に申し訳けないので甲斐路荘の大食堂から窓越しに撮影したものを一枚置かせていただきました(写真右)。つまり食事をしながらでもこのような風景が楽しめるのです。この庭のようなところを100mほど行くと湖岸に出るのです。

 これまで世界各地でいろいろの山を見たり撮ったりして来ましたが、美しさではやはり富士にかなう山は無いなあと心底思わせてくれた満足の三日間でした。



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