ホームシアター  ----大画面への誘い----  伏見医報及び大塚薬報  Jan.,1995

 想像の世界を現実化して見せてくれるすばらしい映画が生まれて100年、若い頃のようにテニスが出来なくなった時のためにと考えていたホームシアターが昨年秋やっと完成しました。

 映画好きにとって困るのは、映画館へ行くための時間を捻り出すのがむずかしいことです。苦労して時間を作っても、見たい映画はこちらの時間に合わせてはやってくれません。 だから、映画はテレビを利用して見ておられる方が大半と思います。もちろん小生も、昨年まではその一人でした。しかし、狭いテレビ画面では、せっかくの名画の魅力も半減、いやそれ以下になってしまいます。そこで、見たい映画をいつでも好きなときに見るために、ホームシアター作りを思いつきました。

 ホームシアターは、映画を街の映画館と同等、またはそれ以上の映像と音声で家庭で鑑賞しようとするシステムで、日本に生まれ、ここ数年アメリカで爆発的にヒットし、少し大げさに言えば、ハリウッドの映画産業に第二期黄金時代をもたらそうとしているものです。

 大画面映像の魅力に接すると、学生時代に安物のプレーヤーから少しましなステレオに変えてLPレコードを聴いたとき、それまでは2,000円のレコード代のうち200円分の音しか聴いていなかったことに気付いて、愕然となったときのことを思い出します。

 市販のLDにはそれほどすばらしい映像と音声が入っているのです。映画を見るにはテレビ画面はあまりにも小さく、あまりにも音が悪すぎて映画がかわいそうです。巨費を費やし、心血を注いで作られたスケールの大きな作品を小さなテレビで見るのは、映画製作者に対する冒涜であるとさえ思えてきます。以下は、中級クラスのホームシアター作成の実際などについての雑文です。

 昼夜を問わず大音響を発することになるので、まず防音に気を使いました。設置する場所をガレージの上と決めて居住部分と分離しました。さらに壁面を鉛の防音シールで覆い、防音と保温を兼ねて天井と壁を厚いガラス繊維のパッドで囲みました。

 窓は二重窓にし、扉は防音効果の高いものを取り付けました。その結果、外からは耳をすまさないと中の音に気付かない程度となりました。窓のない部屋は建築法上許されないので、遮光を完全にするために、二重窓の内側の窓を光を通さないものにしたり、遮光カーテンを使用するなどしました。部屋が長時間密閉状態になるので、十分な容量があり、かつ静かなエアコンと暗室用換気扇は必需品です。

 部屋の一方の壁に120インチの電動巻き上げ式スクリーンを設置しました。スクリーン表面の材料にはビーズ、パール、布、金属など種々のものがあります。なるべく明るいプロジェクターを天井吊りにし、部屋を真っ暗にして鑑賞するつもりだったので、ゲイン(反射率)のあまり高くないパールタイプのものを選びました。

 比較的暗いプロジェクターを使用したり明るい部屋で投影する場合は、ゲインの高いビーズタイプや特殊プラスチック加工のスクリーンが優れています。 高ゲインのスクリーンを使用すると、映像から出た光があまり分散されずに光源の方向に返ってくる傾向があるので、プロジェクターは眼の位置近くに置くこととなります。至適視聴位置が狭くなるのがこのタイプの欠点です。

 巻き上げ式スクリーンは汚れにくいという利点がありますが、大きくなればなるほど、使用時にしわができやすくなります。固定式スクリーンはその逆です。 映写中にスクリーンから反射してくる光が、周囲の天井・壁・床などで乱反射を起こし、再びスクリーンに戻ってくる光による映写画面のコントラスト低下を防ぐために、天井と壁面のすべてを濃い灰色にし、さらに天井には前下がりの傾斜をつけました。

 映画鑑賞での最大の敵は雑光です。少しでも余計な光が入ると画質は大幅に低下します。遮光の不十分な航空機内や、家電店内のような劣悪な環境で映画を見せられると、ホームシアターの魅力は正しく理解されません。困ったことです。

 映画を楽しむためには、映像と同時に、よい音を再生してくれるスピーカーが不可欠です。まず、高域から低域まで広い音を忠実に再現するメインスピーカーをスクリーンの左右に置きます。もう20年近くも愛用しているJBLを使用しました。スピーカーは故障しない限り、使えば使うほど音も声も良くなってくるものです。次にメインスピーカーを助け、大スペクタクル場面とかオペラとか、画面に合った音場を再現するのに必要なイフェクトスピーカーを部屋の四隅に設置します。また、台詞をはっきりさせるためのセンタースピーカーと50ヘルツ以下の重低音再生用ウーファーをスクリーンの中央下部に置きます。

 イフェクトスピーカーには、JBLと相性のよいBOSEを、センタースピーカーとウーファーにはヤマハを使用しました。 これら合計8組16個のスピーカー群を鳴らすのがヤマハのAVアンプです。世界24か所もの著名なコンサートホールや劇場、教会、ライブハウスなどの実際の残響や反射音をいろいろな位置で細かく測定し、それらが再現できるようにコンピュータでセットされています。ソフトに合わせて好みの会場を呼び出し、その雰囲気に浸りながら名画や音楽を鑑賞できるのです。

 ソフトはLDが主流です。VCR(ビデオカセットレコーダー)の画像もS接続ができるようになつて、ずいぶん良くなりました。LDは来年には現在の30cmサイズから12cmサイズのDVDに進化し、画像・音声ともにさらに良くなると同時に、1枚のディスクに録画可能な時間も大幅に増加します。

 ハイビジョン方式のLDやVCRもここ1、2年出始めましたが、まだ肝心のソフトの数が多くありません。次のバージョンアップのときの楽しみに残しておくことにしました。LDプレーヤーはパイオニア、VCRのうちVHSはビクター、βと8ミリはソニーの製品を選びました。メーカーによってそれぞれ得意な分野があって、上手に棲み分けが行われているのは面白いことです。

 ホームシアターの命であるプロジェクター選定にも苦労しました。プロジェクターには、大きく分けると三管式と液晶式とがあります。 現在のところ、映像の明るさ・細やかさ(画質)・ダイナミックレンジ(コントラスト)ともに三管式がわずかに優っているようです。しかし、三管式には調整作業が面倒であったり、上映のたびにウォーミングアップに時間がかかるといった大きな欠点もあります。

 これに反して、液晶式の取り扱いはスライドプロジェクター並みに簡単です。しかも画質も年々良くなってきて、三管式との差は少なくなってきました。ある雑誌に”世界の主流は液晶式に移りつつある”と書いてあったのを読んで、液晶式を採用しました。

 機種は、液プロ(液晶プロジェクター)のリーダーであるシャープのXVE-400と決めて、これに合わせて天井に穴をあけ、100kgの重さにも耐える支持構造を天井裏の梁を利用して作りました。

 液プロの構造から生じる宿命として、画像を細密にすればするほど明るさが暗くなる、黒い部分にも光が少しもれるのでコントラスト低下を起こすという2大欠点があります。その点XVE-400は、画面を構成する画素数が90万以上と十分な細かさを保持しながら、大変明るい画像が得られます。コントラストも十分あり、黒い部分が黒くないといった障害は感じません。レンズのズーム機能・上下シフト横能が付いているのも通常の三管式にはない便利な点です。

 XVE-400には各種パソコンも画像精度を落とすことなく、直接つなぐことができます。マルチメディア時代に対応するためにも、この機能は重要です。注意しなければならないことは、液プロは日進月歩で良くなりつつある過渡期の製品のため、数カ月ごとに各社から新製品が続々出てくることです。機種が変わると、それに合わせて天井裏の細工をやり直すことになるので、天井裏の工事は最後に回すべきです。

 各機器の接続は、美観を損なわずメンテが簡単なように、独立させて壁や天井の裏側にいくつもの太いパイプを設置し、それを通して配線を行います。

 液晶式の最大のライバルはソニーです。現時点では、大画面で見る場合に最も重要な画面の明るさではシャープが断然リードしていますが、画質ではソニーが優れているようです。三管式ではBARCO(ベルギー製)やソニーの製品が有名です。

 プロジェクターを取り付けてシアターの完成です。ここ10年以上も映画館に足を運んだことがなくテレビ画面を見なれている者にとって、その迫力はまさに驚異でした。画面を広く感じるかどうかは画面を見るときの視角で決まります。大体画面上下の長さの2〜5倍程度の距離から見ると、目の前に画面が大きく広がって映画館の特別席で見る感じになります。

      

 バッファローの大群が押し寄せて来るとか、広大な山岳風景の中でのアクション場面とかでは、あたかも自身がその中に入っているかのような感がして最高の気分です。

 LDやテープで映画を楽しむことの利点は、評価が確定してからソフトを選ぶことができるので、見終わってからつまらなくて時間を損した思いにかられることが比較的少ないことでしょう。映画館に出かける時間が節約できるのもありがたいことです。

 シアター作りで失敗した点はといえば、ライトや電動スクリーンのスイッチ類はすべてワイヤレスのリモコン式にするべきでした。インターホンも、手を触れないで話ができるものにすれば良かったと思います。暗闇に座っていてこれらを操作するのはたいへん不便です。しかし、いくらでも増えてくるAV機器や、エアコン用の多くの複雑なリモコン類の整理も、また大変困ったことです。

 映画やオペラだけでなく、交響楽、室内楽、軽音楽なども映像付きで鑑賞すると、音だけのときとは全く違った味わいがあります。また、競技場のざわめきにつつまれて見るスポーツ中継にも最適で迫力満点です。古いものから新しいものまで、特に印象に残っている映画、おすすめの映画などの情報を、知人・友人に尋ねたり、パソコン通信で教えてもらったりしてソフト選びをしているこのごろです。

 以下は最近観た映画の中から特に楽しめた作品です。ほとんどがアメリカ映画になってしまいまし。1.シンドラーのリスト(スピルバーグの傑作)、2.愛と哀しみのボレロ(われわれと同世代の各国人の生きざま、音楽が素晴らしい)、3.クリフハンガー(スリルに満ちた山岳サスペンス)、4.ペリカン文書/依頼人(グリシャム原作)、5.グランプルー(映像と音が最高)、6.ブレーメン4(手塚アニメ)、7.逃亡者(医薬の世界にありそうな話)、8.ダンスウイズウルブス(アメリカインディアンの悲劇)、9.ファンタジア(昔のデイズニー音楽映画)。

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