写真とパソコンと私      伏見医報 Sep.,1999

 写真を撮るようになってから半世紀が経とうとしています。 私の写真好きを知っていて親切な方から自分で撮影された写真が送られてく ることがあります。ありがたいことです。 時には感動の余りにいつまでも机上に飾らせていただいたり、パソコンの壁紙に張り付けたりしています。そんな写真・・・・解説などなくても自然に感動を呼び起こすことの出来る写真・・・・を作りたいと常日頃考えているのですが感性不足の私にはなかなか思いどおりには行きません。

 ずっと以前に写真について書いた文章では、「ゴルフ旅行やテニス旅行の際、ついでにカメラを持って行って も駄目である。ついで気分では良い写真は撮れない。良い写真を撮りたいなら それだけを目的にして出かけるべきだ。」などと書いていました。 しかし、実際問題として写真を撮ることだけが目的などという贅沢な旅行は忙しい日常にあってたいへん困難であることを悟りました。ですからここ数年はもっぱら「ついで撮影」でいかにして良い写真を撮るかということを心がけて来 ました。

 幸いなことにカメラをとりまく環境も、この「ついで撮影」を容易にする工夫がいろいろなされて来ました。フィルム感光剤の超微粒子化、高感度化、非球面レンズの多用、マイコン組み込みによる自動化、そしてズームレンズの進化や高機能パソコン・デジカメの登場等々。

 特に優秀なズームレンズの出現と新素材によるボディーとレンズの軽量化は何本もの交換レンズを持ち運こぶという苦しみから写真愛好者を解放してくれました。また、フィルムが良くなって35mm写真の画質が向上し画質重視のために使わざるを得なかった大型カメラでなくともシャッターチャンスを重視する小型35mmカメラで充分きれいな写真撮影が可能になりました。

 35mmカメラと大型カメラとそれらの交換レンズ一式となるとゴルフ道具並の重さになったものです。 今ではズームレンズを付けたカメラを一台手元に置いておけばそれこそ仕事場への行き帰りといった日常生活の中ででも写真撮影を気軽に楽しむことが出 来ます。

 目下小生が愛用しているレンズはタムロンズーム28〜300mmです。ズームレンズに関する限りカメラメーカーのものよりレンズ専門メーカーのものの方が性能的にも価格的にも優れているように思います。ボディーはどこの製品でも大差ありません。私は同程度の機能を持ったニコン(785g)やキャノン(780g)より350グラム以上も軽いペンタックスMZ-3(415g) を使っています。軽さこそ高年者にとっては何物にも代え難い性能です。

 今回はこのカメラとレンズを使用して「ついで撮影」の最たる大津の自宅から醍醐の医院までの通勤途上約20kmの間で撮影した写真と、パソコンによる写真の整理について書いて見ようと思います。

 家から出て数分の所に私が勝手に名付けた「あじさい街道」があります。誰が植えたのか初夏になるとすてきな花の列を見せてくれます。5分ほど回り道になるのですが日々移ろい行く花の色の美しさには代えられません(写真1)。

 瀬田川沿いの道も私の好きな道です。広角で撮影した広々とした風景です。朝の美味しい空気を一杯吸いながら撮りました(写真2)。川面に映る陳腐なはずの橋桁の色さえ美しく見えます(写真3)。

      

        写真1                 写真2                 写真3

 混雑する国道1号線を避けてしばらく高速道路沿いの裏道を走ります。アップダウンとカーブの多いこの道を通るとあたかも「養老天命反転地」に入ったような不思議な感じがします(写真4)。 山科で左折してからも名神沿いの道を南下します。高速道路の土手に咲くし ゃくなげの花です(写真5)。

                   

                 写真4                       写真5

 更にも少し行くと左手にたんぼとその中に立つ家々の屋根が印象的です。市内に残る貴重な田園風景といったところでしょうか(写真6)。家を出てから約40分で医院に到着です。医院の前のたった1坪ほどの花壇に植えられたつつじです。何も世話をしないのに土が合っているのか毎年春になるときれいな花を咲かせ楽しませてくれます(写真7)。

                   

                 写真6                       写真7

 こんな調子で撮っているといくらでも写真が増えてきます。アルバムに貼るのも面倒なのでパソコンを使って整理することにしました。 友人・知人の中には自分の撮影した写真、画いてきた絵などを集めて個展を開いたり作品集を出版したりする方が増えて来ました。皆さんご自分の感動を見ていただく人たちと共有したいのだと思います。

 それに刺激されて私も個展なるものを開いて見たくなりました。さて会場はどこにしようか。京都市美術館にしようか国立国際美術館にしようか。などと勝手なことを考えるのは自由ですがそんな話を取り合って貰えるわけがありません。

 よし、自分のパソコンアルバムをそのままホームページギャラリーにして世界に向けて発信してしてしまおう。1人でも2人でもいい、写真の好きな人ならきっと見てくれる筈だ。現に私自身これまで他人の作ったギャラリーをいくつものぞいてきたのだから。

 ホームページを使ったギャラリーにはそれなりの利点もあります。まずお金がかからないこと、ついで世界中どこからでも時間を問わず気軽に見に来ていただけるということです。難点はやはり実物を見ていただけないことと見に来られた方と直接会って話が出来ないということでしょう。

 そんなことを考えながらインターネット上にギャラリー作りを始めました。 写真をパソコンに取り込むにはデジカメが簡単ですが、現時点では普通のカメ ラの方が良い写真が撮れます。もっとも600万画素のキャノンEOS D6000(360 万円)や274万画素のニコンD1(65万円)などを使えば別ですが。

 そこで普通に撮影した写真をフィルムスキャナーを使ってパソコンに取り込みました。原理は簡単なので気楽に考えて始めたのですが、なかなかどうして 2700dpiのニコンスキャナーで取り込んだ写真をわずか80dpi程度の能力しか持たないパソコンモニターできれいに表示するには100回近くもの試行錯誤が必要でした。

 しかも現在の電話の通信速度はあまり速くないので写真として理想的なものをインターネットで送ろうとすると1枚あたり1時間以上も時間がかかる計算になります。それを何とか20秒以内で送ろうとすると写真に含まれた色相、彩度、 明度、画素数などの情報を思い切り間引いてしまうしかないのです。間引きをやりすぎると画質が落ちて写真が見られなくなります。いかにしてきれいな写真を速く送ることが出来るか。この答えを見つけるのにまた数カ月 を要しました。

 こうしてやっと99年7月、ホームページギャラリー第一集が完成しました。 表示速度が遅いと折角ギャラリーを訪問していただいても肝心の写真をなかなか見ていただけません。表示速度を少しでも速くするために、額縁を付けたり、廊下やドアがあったりと実際のギャラリーに入ったかのような雰囲気を出すことはやめました。それぞれの写真に解説を付けることもしませんでした。あと数年して通信速度が今の10倍位になればこんなことをする余裕も出てくるかもしれません。

 ホームページと限らずパソコンを写真に応用すると、今まで難しかったいろいろな表現が出来るようになります。最後にそんな例をいくつか見ていただきます、写真8 は水彩画のような効果を持たせた写真です。

        

                                写真8

 写真9では、疎水両岸に置かれていたライトアップ用の大きな投光器を邪魔になるのでパソコン上で消してしまいました。

                        

                                写真9

 少し邪道になるかも知れませんが人の眼より格段に感度の良い眼であるフィルムとパソコンを利用して人の眼では感じないごくわずかの色や明るさの変化を強調することで元の写真を一風変わった写真に変身させることも可能です。

 写真10はパソコンを使って元の写真11の色の違いを強調して作成したものです。なお、貴重な写真をパソコンで整理される際の注意を一つ、必ず使用中のも のとは別のハードディスクなりMOディスクなりにバックアップを取っておかれることです。ハードディスクも機械ですから必ず壊れる時が来ます。

                     

                 写真10                         写真11

 それほど遠くない将来、今の銀塩フィルムを使用したカメラの大半はデジカメにとって代わられることでしょう。丁度33回転のLPがCDやDVDにその使命を譲ってしまったように。 しかし、美しい風景を切り取って残したい、そしてそれを多くの人たちと共有したい、という願望はその手段がどう変わろうとも続いて行くに違いありません。10年後20年後の写真をとりまく世界がどのように発展して行くかを楽しみにしながら稿を終わらせていただきます。

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