「21世紀 京の夜明け」写真作成顛末記   Dec.2000

 平成12年12月の始め、京都の或る新聞の新年号を飾る日の出の写真を作るように言われました。それも締め切りが迫って居るので10日以内にというお話です。世間一般の人は写真など誰でも簡単に撮れるのだからせいぜい10日もあれば十分だろうと考えて居られるようです。

 いつかどこかで撮った写真でお茶を濁して置けば簡単なのですが、どこかで見たような写真をまた見せられるなど、読者の方々に対してたいへん失礼なことだと思って急遽新しい写真を作ることにしました。

 仕事の合間に短時間で満足の行く写真を作るなど全然自信はありません。まず、美しい日の出を見ることが出来てしかも撮影に適した場所を予め見つけておくロケハンから始めました。条件は早朝寒い時間に吹きさらしの中での仕事になるので撮影現場に車を置いてその瞬間まで暖かい車の中で待って居られるような所です。

 数時間車で走りまわって幸い適当な場所を見つけました。京都市南部近郊は現在第二京阪国道や新京奈道路、それらのインターチェンジなどの大規模な道路工事が進行中です。ハイウエーを作るにはまず盛り土をしなければなりません。方々に道路の前段階である広い盛り土部分がありました。

 周囲からひときわ高くなっている広大な盛り土部分は日の出を見晴らすには最適の環境です。工事現場の方に聞くと朝は9時からしか仕事をしないとのことです。しめしめ、これは好都合です。

 東方を眺めて見るとはるか東の山並みの稜線が、遮るものも無くカメラの広角視野一杯に広がっています。京都市の直ぐ近くにまだこんなに広い平野があったのかと改めて感心しました。そう言えば江戸時代まではこのあたりは広い池であったことを思い出しました。

 この方角には朝日山なる小高い山があるそうです。なるほどなあとの思いです。これで撮影場所は決まりました。あとは好天を待つのみです。

 翌朝少し曇り空だったのですが、文字通り運を天にまかせて5時起きしてそこへ行きました。平日なら自宅から現場まで90分はかかる所ですが、早朝のこと、20分足らずで到着です。やや後ろめたい気持ちで工事現場入り口の簡単なバリケードを取り除いて未完のハイウエーを300メートル位走った所が見つけておいた場所です。

 残念ながら心配していた雨雲がたれ込めて来ました。結局この日は太陽の姿は全く拝めず、少し紅く染まった東の空を数枚撮影し、念のためにもう一度撮影に最適の位置を確認しただけで撤退しました。

 翌々朝の同じ時間同じ場所、今度は快晴です。あたりが徐々に明るくなって来ました。しかし雲一つない快晴というのもどうもいただけません。適度の雲があってこそ日の出の太陽はより一層美しく映えるのです。ともかく日の出前後の15分位の間に50枚ほど露出とズーミングを変えながら撮影しました。

 長年の経験から出来上がりを見なくてもどんな写真になるのかは大体分かっています。今回の写真はあまりに晴れすぎていたためのっぺりした全く面白みのない日の出写真になっていることでしょう。これではどうしようもないなあ。締め切りは4日後に迫っているしはて、どうしたものか。

 翌日現像が上がって来ました。どれを見ても同じような予想通りの写真です。広い空と広い平野、遠くに宇治の町並みと建設中の京奈道路の橋脚が南北に長く連なって見えています。

 写真をよく見ると当然のことですが明るい日の出の太陽の部分を中心に遠くなるほど少しずつ暗くなり色も変化しています。よし、この明るさと色の変化をパソコンで強調してみたら面白いものになるかも知れない。そしてITの21世紀の幕開けに相応しい日の出写真が出来るかも知れない。

 画像レタッチソフトを使って数十回ああでもないこうでもないと試行錯誤の結果出来上がった作品と、その元になったパソコンで料理する前の写真とを載せて置きますのでご覧下さい。最終作品のみはクリックするとフルサイズの写真が見られます。

      

            最終作品                             元の写真

      

             作例 1                               作例 2

      

             作例 3                              作例 4

              ――――――――― 閑話休題 ―――――――――

 例えば風景を画くときに、そこに電柱や電線、金網フェンスなど、どうしてもその場の雰囲気にそぐわない猥雑物があった場合、適当に取り除いて画いてあることがあります。

 これまで写真ではそのようなことが不可能でした。ところがパソコンの登場で事情が全く変わってしまいました。猥雑物を取り除くのは自由自在、枯れ木に花を咲かせることさえ可能です。

 現実には存在しない風景写真が簡単に作れるようになってしまいました。これが行き過ぎると、写真が写真でなくなってしまうかも知れません。

 デジカメの使用が盛んになって来ました。あと数年もすればデジカメ全盛期が到来して、これまでの銀塩フィルムを使用したカメラはどんどん姿を消して行くことでしょう。

 デジカメをお使いの方、まだ使ってられない方、それぞれのカメラの利点、欠点、使用感、ご意見などをお聞かせ願えませんでしょうか。

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