EV−電気自動車
                            伏見医報 2021年8月銷夏特集号  栗原 眞純

 作年の銷夏号に書いたことを思い出しながら書いています。異常気象/地球温暖化の原因とされている温室効果ガス、とりわけ車の排CO2が問題になり、走行中CO2を排出しないEV(電気自動車)が中国・欧州に始まり世界で幅をきかし始めました。

 ところがそのEVこそがCO2排出の要因ともなっているのは皮肉なことです。走行中にGV(ガソリン車)より頻繁に充電ステーションに立ち寄ってしかもガソリン給油時の数倍の時間をかけて給電する電気は、今なおその多くが石油・石炭などの化石燃料を燃やし、大量のCO2を排出しながら生産されています。しかもGVの燃料→動力を、EVは燃料→電気→動力と中間に発電/蓄電過程を入れることでエネルギー効率を落としています。

 中国や欧米でEVがよく売れているかのように見えるのは多額の補助金を出してEVがHV(ガソリン走行と電池走行を併用)やGVより有利な価格で購入出来たり、駐車料金や自動車税の無料化等の政策をとっているからです。これらの政策は結局は国の予算を圧迫することになるのでそれほど永続きしないでしょう。

 しかし、自動車産業そのものは国家の屋台骨でもあるのでこれを潰すわけには行きません。GVではHVにもEVにも勝てなくなってきたEV諸国は国から自由貿易の原則を揺るがすほどの莫大な援助を受けて自動車産業の新型EV転換を急いでいます。

 日本では20年以上も前にそれまでのGVに比し、一挙に燃費は2倍、排CO2は1/2を達成した充電ステーション不要の電気自動車、HVの売れ行きが今も絶好調です。そうです、HVはその並外れた性能のためEVから仲間はずれにされかけていますがれっきとした電気自動車でもあります。

 ではHVも走行用にバッテリーを使うにもかかわらず何故充電ステーションが不要なのでしょうか?
 その答えはEVに不可欠の電気を車外(充電ステーション)からではなく、走行中の車自体から100%得ることを思いついたことにあります。これまでのGVが減速時に捨てていた大量の位置エネルギーと運動エネルギーを効率よく回生、再利用しました。全ての道路のほぼ半分は下り坂で絶えず減速が必要です。

 これらのことをよく知っている日本のドライバーは容易には通常のEVになびかないと思いたいのですが、日本発のHVに勝つために各国が採用しだした「ガソリン価格高騰」の元となる炭素税やガソリン税の導入に、いささか頼りない日本政府の要人がうっかり同調してしまわないことを願うばかりです。

 HVの燃費が良く環境にも優しいことが欧米や中国の人達にも実感され、HVが良く売れるにつれこのままでは世界の車需要の大半を日本発のHVに握られてしまうことを恐れた海外諸国がそろってHV締め出しのために国家政策として1935年までにHVを含むガソリン車の使用禁止を謳うなどEV導入キャンペーンを行っているのが現状です。

 丁度1980年代、世界を席巻していた日本の半導体産業が、危機感を抱いたアメリカに徹底的に潰された時の構図を思い出させます。日本の半導体産業は今も見る影のない状態です。HVが二の舞にならないことを祈ります。

 EVで使用する電気を現状のように化石燃料に頼っている限りEVはHVに勝てないでしょう。ここ暫くはEVに比しHV優勢が続くと思われますが、数年もすれば、安価で軽く長寿命で充電スピードの早い高効率の新型バッテリーの出現、再生可能エネルギーの低価格化、核融合発電などが予想されるのでHVも安閑としては居られないのは勿論です。

 最近、ドイツ政府は低排出ガス車対象だった購入助成金を大幅に増額すると同時に助成対象からHVを外しました。そうでもしないとHVの売れ行きに歯止めがかからず、ドイツの助成金で日本のHV産業を支援することになりかねなかったからでしょう。

 昔話をすこし、私の電気自動車との最初の出会いはガソリンが全く無くなった終戦間もない1949年ごろ、のろのろ走る木炭自動車(ガソリンの代わりに木炭で走る)に取って代わり颯爽と四条通りを走り廻る電動タクシーを見たときでした。排気ガスも無く静かで速いその姿に感心したものです。

 当時四条通に近い日彰小学校に通っていた私は、近くの大丸百貨店の屋上公園によく行きました。或る日、10数台の子供用電気自動車が置かれている狭いサーキットで運転を楽しんでいたところ、係のお兄さんに「ちっちゃい子と一緒に乗ったってくれへんか」と頼まれました。
 喜んで引き受けて夕刻まで生まれてはじめてのバイトを楽しんだことでした。


世界初の量産電動タクシーに使われた「たま」号

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